parte una:ドッペルゲンガーさん、いらっしゃい (2005.05.18)

 世の中には自分そっくりな人が3人居るとか言われますが、ドイツでは自分そっくりな人間を見たら死ぬ、と言い伝えられているそうな。
 これはある時の少々不思議な体験のお話だったりします。
 ある年の6月。
 成田からホノルル行きのフライトに乗った時のこと。
 夏休みまであとひと月近くあるためか、待合室で搭乗を待つ人達もそう多くはない様子。
 これから1ヵ月に及ぶ撮影旅行のため、撮影機材と大量のフィルムを持っているので、いつも機内での置き場所に苦労するのだけれど、今日は大丈夫そうだ。 とはいえ優先搭乗の開始と共に機内へと進む。 EXITシートのすぐ上には荷物入れが無いからして。
 勝手知ったる?機内、ズンズン翼の上あたりのドア横のシートへと通路を進んで行くと、アジア系の乗務員達がにこやかに挨拶をなげかけてくれる。
 「やあやあ、どうもどうも」返事を反しながら席にたどり着くと、まずは座席後方の荷物入れに荷物を押し込み、一息ついて座席に座ると、横のギャレーから年配の女性乗務員がこちらにニコニコしながら近付いてきた。
 「あら、またお会いしましたね」
 と、その人は親しげに問いかけてくるのだが、こちらには覚えが無い。
 機内ではブレーカーが2,3個落ちて切れかけの真空管のような状態になる自分だが、親しく会話を交わした人を忘れるほど壊れてはいない筈である。
 頭の中のメモリーを急速に手繰ってみるが、どうしても思い当たらない。
 確かにこの成田-ホノルルを飛んでいるホノルルベース乗務員の乗る他の路線にも乗ることはあるけれど、せいぜい年に一回。
 強く印象に残る乗務員も居たけれど、それは年配のオジサンだったし、このオバサンにはあった記憶が無い。
 「他の方とお間違いではないですか?」と答えると、もう一人の女性乗務員が近寄ってきて、やはり親しそうに「お元気でしたか?」などと話しかけて来るではないか。
 そして二人で、「この間ご一緒にフライトしたではありませんか」という。
 「申し訳ないけれど、お人違いでは?」と答えても、確かに自分だと言う。 俺の頭壊れたのか?それともドッペルゲンガー?
 腑に落ちないながらも出発が迫って来たので座席に付き、ベルトを締めようとすると、最初に声を掛けてきた乗務員がやって来て、「ドアが閉まると前から空席を狙って人が来るから今のうちに席を変わっちゃいなさい」と、中央の5人掛けの空席を勧めてくれた。
 「ギャレーの横の席だし、ゆっくり休めませんから」と促されて席を換わったのだけれど、離陸後にまたその乗務員がやって来て、「お食事はどうされますか?、すぐに休まれますか?」と尋ねるので、すぐに眠りたいと答えた(到着後すぐに撮影なのだ)。
 すると「じゃあこの5席使って下さい。ベルトを締めてあげます。横になって」と促され、毛布を掛けてくれたうえで、たすき掛けのようにベルトを締めながら、「こうやって締めるんですよ」と器用にベルトを締めてくれ、エコノミー・スリーパーの住人となった。
 座面が平坦ではないので少し辛かったが、朝食も終わり最終降下に入って起こされるまで、珍しく機内で眠ることが出来た。
 降り際に2人の乗務員に篤く礼を述べ飛行機を後にしたが、心配りの暖かさと南の島の朝の日差しがまぶしかった。

 どこかにいるもう一人の自分に感謝したのは言うまでもない。
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